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たとえば非正規雇用の若者。「居場所」がない人が宗教を求める

坐禅で「悟り」は開けない その二

自分は誰か

 このダメージは、どう考えても「自己決定」や「自己責任」の埒外でしょう。そうだとすると、「苦しい」人たちの思いは、「どうして自分はこうなんだろう?」「どんなに努力してもダメなのは、なぜだろう?」という絶望的な問いとなるのではないでしょうか。

 これには、自分自身も他の誰も答えられません。「なぜ自分だけこうなんだろう?」は、しばしば「なぜ自分は生きているのだろう?」となり、最後に「そもそも自分は何なんだろう」という問いにまで至ります。

 近代以前の社会は、いわゆる「ムラ社会」と呼ばれる地縁血縁共同体が各自に「役割」を与え、近代以後は基本的には会社が与える役割、つまり「職業」が「自分は誰か」を決めていました。近代社会で「無職」が強い警戒心を呼び起こすのは、それが「正体不明」と同義語だからです。

「自分が誰か」を規定するものを「アイデンティティ」と言うなら、家族を信頼できず、職業が不安定な人のアイデンティティは、今どうやって安定させたらよいのでしょう。

『「悟り」は開けない』ベスト新書より構成〉

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南 直哉

みなみ じきさい











1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務。1984年、曹洞宗で出家得度、同年、永平寺に入山。以後、約20年の修行生活を送る。

2003年に下山。現在、福井県霊泉寺住職、青森県恐山菩提寺院代。著書に『語る禅僧』(ちくま文庫)、『老師と少年』(新潮文庫)、『恐山―死者のいる場所』(新潮新書)、『善の根拠』(講談社現代新書)、『刺さる言葉―「恐山あれこれ日記」抄』他。


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